この記事は「
Board Game Design Advent Calendar 2018 24日目」の記事として書きました。
システムについて語りますと言って、そのシステムの内包する問題点を意識しつつ、それを解決しているタイトルを具体的に挙げ、どのような手法によってそれがなされているかを確認し、見識を深めるといったことをやっているシュピール亭です。三田です。こんにちは。
普段は前置きなしでやってますが、今回はアドベントカレンダーという不特定多数が読む可能性のある場でありますから好事家相手にわかるよね→わかる/わからないから調べる/わからないけど気にしない、というようなやり方では問題があるわけです。問題がある?どこに? いや、本当は問題はないんだけれども。だって、ボードゲームデザインアドベントカレンダーを読む人ですよ。かなり極まった好事家でしょう。ということはこの前置きに意味なんてなくて。
(暗転)
閑話休題。ある時ふと気づいたんですね。システムは、ゲームを動かす役割を担うものと、それ以外に二分されるということに。で、ゲームを動かすシステムについて「ゲームエンジン」と名付けました。それ以外については「メカニクス」とでも言えば格好がつきますが、特段言い換える意味もないので単にシステムと言って放ってあります。
この「ゲームエンジン」という言葉はかなり端的にそれを表していて、これについては特段説明の必要がない、かつ僕があたかも通用しているような語として自然に発することで言葉が定着するのではないかとそう思いました(また、同様の発想でこの言葉をチョイスする人が他にいてもおかしくはないので、円卓PさんやN2さんの言う「エンジン」と僕のこれが同一のものを示しているかはさだかではありません)。
で、3年ほど素知らぬ顔で使い続けてきたんですが、ちょっと問題が起こってしまったので筆を取るもといキーボードを叩くことにしました。問題がある? どこに? いや、問題はあるので後述します。
さて、わかるよね?となんとなくで概念を伝えるゲームに興じていたわけですが、ゲームエンジンについて定義します。
結論としては「アクションを選択させる仕組み」です。イメージとしてはもちろん「ゲームを動かすもの」ですが、それじゃあふわっとしてるので。
一昔前のゲームはそのシンプルさゆえにゲームエンジン単体でゲームになっているものもあり、その他のシステムと切り離すのが難しいものもありますが、現代においては例に挙げるにふさわしいデザイナーがいますので、紹介したいと思います。誰だと思いますか? そう、ステファン・フェルトです。フェルトは独特なゲームエンジンを用意し、その他のシステムは同じ味付けをしてゲームを作ります。もちろん例外はありますが。
一方、ウヴェ・ローゼンベルク(現在のすがた)やマック・ゲルツはいつも同じゲームエンジンを使用し、その他の部分で違ったゲームにしていると言えば伝わるでしょうか。
フェルト
・トラヤヌス
ゲームエンジン:マンカラ
その他:ポイントサラダ
・ボラボラ
ゲームエンジン:ダイスプレイスメント
その他:ポイントサラダ
・アメリゴ
ゲームエンジン:キューブタワーによるアクションポイント制
その他:ポイントサラダ
ローゼンベルク
・アグリコラ
ゲームエンジン:ワーカープレイスメント
その他:箱庭
・ル・アーブル
ゲームエンジン:ワーカープレイスメント
その他:リソースマネジメント
・オーディンの祝祭
ゲームエンジン:ワーカープレイスメント
その他:テトリス
ゲルツ
・インペリアル
ゲームエンジン:ロンデル
その他:株
・古代
ゲームエンジン:ロンデル
その他:陣取り
・ナヴェガドール
ゲームエンジン:ロンデル
その他:拡大再生産(あるいはポイントサラダ)
※これらはゲームエンジンの説明のための恣意的な分類であり、その他の部分については得点手段だったり、テーマだったり、メカニクスだったりが書かれて一貫性がありません。
以上でゲームエンジンが指すものについては伝わったかと思いますし、この認識によりゲームの構造がある種の置換可能な性質を持っていることがお分かりいただけるかと思います。
最初に定義した通りゲームエンジンはアクションを選択させる仕組みですから、ワーカーを置くことでアクションを選択させるし、ロンデル上の駒を動かすことでアクションを選択するのです。また、アクションポイント制は最もシンプルなゲームエンジンと言えるでしょう。
さらに言えば、ミニマムなゲームはそれ自体がゲームエンジンになりえます。
例えば、コロレット。めくるか取るかを繰り返すゲームですが、あのカメレオンのカードに何かしらのアクションを割り当て、獲得したらそのアクションを行う、とするとコロレットのめくるか取るかをゲームエンジンにすることができますし、そもそもコロレットはそのめくるか取るかのアクションをゲームエンジンに使ったセットコレクションのゲームとも言えます。
おしまい。
で、後回しにしていた「問題」についてですが、エンジン構築というジャンルが現れたことです。センチュリースパイスロードやドミニオン、コンコルディアに代表されるあれらのメカニクスをエンジン構築と呼ぶ動きが出てきたんですね。ゲームエンジンにおける「エンジン」とエンジン構築における「エンジン」で指すものが微妙にズレているため、あんまりよろしくないなと。誤解のないように言っておくとエンジン構築という言い方自体は的を射た尤もな命名かと思っています。
で、ともかくいい機会なのでゲームエンジンの定義付けというか僕の言う「ゲームエンジン」について説明しようと思っていたところこれまたいいタイミングでこういう企画があったもんですから、参加いたした次第であります。
本当はeスポーツの件で、「非対称な格闘ゲームは競技に向かない。ぷよぷよのように対称でなくてはならない」みたいなツイートを見かけたので、いや、それは大いに間違ってますよという話をしようと思ったんだけれど、この話は穴を掘って埋めておきます。
以上。